2022年5月6日金曜日

ポメラを十四年使って、僕が考えたこと

―― 実際に作業で違う機材を使ってみようと、ということもないんですか?
(レイ・ハラカミ) みんなにいろいろ言われるんですよ、「いいかげんもっといい機材買いなよ」とかそういうことを(笑)。でも、今でいいんだから、別に新しくなくても、と思うんですよね。だから、興味が機材とは違う所に向いているんでしょうね、僕は。「どんな機材でも俺流を貫くぜ」とは思えない。やっぱり、機材のクセ、音色・音源のクセみたいなものはわかっているから。
―― そういう使い慣れたものの方が新しいものを生み出しやすいということですよね。
(レイ・ハラカミ) 結局、発見というものは、外にあるんじゃなくて内側にあるものだと思ってますから、そういう所にしか興味が持てないですね、今は。

雑誌『FADER』 Vol.11 (『ユリイカ 2021年6月号 特集=レイ・ハラカミ』(青土社)に掲載)


先日、キングジムのポメラDM200が販売終了になっていることに気づきました。製品の公式ページに、最近までなかったはずの、販売を終了した旨の文言が付加されています。

DM200|デジタルメモ「ポメラ」|キングジム

今年の3月末ごろに私が同ページを見たときには、確かになかったはずの文言です。4月の初めごろに見ると、いつの間にか書かれていました。状況証拠としては、2022年3月末までの販売だったということでしょうか。以後は、店頭にある在庫を買うことができるのみになるものと思います。

ポメラDM200は、私は2016年10月に購入しました。すなわち発売と同時です。自分のEvernoteをよく読んでみると、DM200が2016年10月21日の発売なのに対し、私は2016年10月15日に注文しています。記憶が定かでないものの、どうやら予約して購入したようです。

購入して以来、2018年6月に購入したポメラDM30と併用しつつ、ずっと使い続けています。ポメラを家の外に持ち出すことはあまりありませんし、2台を併用して使っていて負荷が小さいためか、不具合はまったくありません。何も問題なく、当たり前のように使い続けることができています。

2016年から数えると、もう5年半になります。5年半が経っても、当たり前のように使い続けることのできる道具です。そう、ポメラは確かに道具という感じがします。

ポメラDM200は、完成された、ひとつの閉じた道具です。美しく誇り高い、書くための道具です。ポメラDM200で書くことは、PCやスマートフォンで書くこととも、紙とペンで手書きすることとも、まったく別の体験です。ポメラにしかない癖のようなものがあり、ひいては、ポメラでしか書くことのできない文章があります。私などは、ポメラを使いたいために文章を書くようなところがあるので、ポメラでしか書くことのできない文章とは、ほとんどすべてです。

私がいて、道具があります。道具があって、私がいます。私は懸命に道具を使います。矮小な私より、ポメラの方が立派で、尊敬すべき存在です。どちらの文ももっともらしく聞こえますでしょうか。妙なことを言うようですけれど、とりもなおさず、道具を使うとはそういうことです。「どんな機材でも俺流を貫くぜ」とは、私には思えません。

現代の電子機器を、5年半もの間も買うことができていたことは、素晴らしいことです。電子機器でありつつも、ひとつの閉じた道具だからかもしれません。ひとつの閉じた道具だから、ポメラDM200を使って文章を書くことは、ずっと続けていくことができます。ずっと続けていくことができるという、手触りのようなものがあります。

2020年4月に、ポメラDM30が販売終了になったことを思い出します。これで、いま販売されているポメラがなくなってしまいました。未来に、新しいポメラが発売されることがあるのでしょうか。大変に楽しみではあります。でもそれは、ポメラDM200というひとつの閉じた道具、美しく誇り高い書くための道具とは、別のものになりましょう。寂しい限りです。


終わりに


道具に私が使われているところに、道具を使うということがあります。道具と私を行ったりきたりするところに、発見があるのでしょう。興味が道具とは違うところに向いているから、道具のことばかりに興味があるのかもしれません。


最後に、この奇妙な状況を次の簡単なパズルを考えることによって理解することもできる。どちらの文がより正確か?

 (1) 文Gは証明できないにもかかわらず正しい。
 (2) 文Gは証明できないので正しい。

文Gのもたらずパラドックスをよりよく調べようとして、この二つの文の間を行ったりきたりしているうちにどちらの文ももっともらしく聞こえるようになってくれば、あなたもゲーデル流の考えを本当に理解したことになる。

『メタマジック・ゲーム ―科学と芸術のジグソーパズル』(ダグラス・R. ホフスタッター 著, 竹内 郁雄 訳, 片桐 恭弘 訳, 斉藤 康己 訳)