2013年10月19日土曜日

歯ブラシの普遍

Clip to Evernote
知的生産のことについて書きます。

本ブログでは、同種の話題を幾度か取り上げたことがあります。類似のトピックが繰り返し記述されることについては、様々な原因が考えられます。ややもすると、面白いテーマかもしれません。

今回の場合の回答は、知的生産というものが、非常に普遍であるためでしょうか。

こちらの記事を読みました。

シゴタノ! 未来をつくる言葉の紡ぎ方

引用いたします。
「知的生産」という言葉が、あまりにもアカデミック寄りに理解されすぎているのではないか。そして、現代では多くの人に必要なのにもかかわらず、それが十分に普及していないのではないか。そういう懸念を持っているのです。
上で私が書いた、知的生産は普遍のものである、との話に矛盾しません。
私は「懸念を持っている」ほどではないものの、知的生産の言葉からアカデミックな響きを感じることも、そのために何かが妨げられているかもしれないことも、なるほど同調できます。

何かが妨げられていることは、いかにして解決することができるのでしょうか。先の記事では、知的生産という名前付けを疑っているようです。
解決の糸口として、非常に良さそうな方向性です。おそらく、根本的に解決するためには、ほとんど唯一の施策でしょう。
知的生産の中身の方には不審なところが見あたりませんので、名前が怪しいわけです。

他方で、私も少しだけ思ったことがありました。
行為として見たときに、何をしたら知的生産と呼ばれるのか、いまひとつわかりにくく感じるのです。

知的生産の方から見たときに、こういうことが知的生産に属する、といった考え方はよく理解できます。
しかし、様々な日常の行為の方から見たときに、それは知的生産と呼ばれるものである、と言い切ることは、少し難しく思います。

そこで、これは知的生産と呼ばれる行為だ、と私が感じた場面について書いてみることとします。
『数学ガール』シリーズ(結城浩)にならえば、「例示は理解の試金石」なのです。現代を生きる私たちの、大切なスローガンです。

その例示は、『「知」のソフトウェア』(立花隆)に見つかりました。
「現実に即した分類」と題され、新聞記事の情報整理について語られているところです。

状況はこうです。
たとえば、自民党の幹事長とある野党の書記長が料亭で密談した事実を暴露したスクープ記事がある。
これが、知的生産のきっかけになります。
知的生産とは、基本的には、ある情報をもとにして新しい情報を生産することでしょう。ここにあるスクープ記事が、もとの情報であるわけです。

スクープ記事を手にした著者の立花さんは、次のように考えます。
これは、「自民党」と「野党」のどちらにも分類できる。あるいは、「政局」として分類すべきかもしれない。
スクープ記事の分類を吟味しています。
この時点で、純粋なスクープ記事の情報の他に、自民党、野党、政党、との新しい情報が生産されています。

立花さんの考察は続きます。
待てよ、ここで「密談」という分類項目を作ってみたら面白いのではないか。 
(中略) 
むしろ、「密談スクープ」という分類項目を作ってみたら面白いのではないか。あるいは、「料亭政治」ではどうか。「与野党なれあい政治」というのはどうか。「連合政権への胎動」というのはどうか。
新しい情報が次々に生産されている様子が確認できます。

行為としては、大層なことではありません。見つけた新聞記事を、どこに分類してしまっておこうかと考えているだけです。
しかし、明らかに、それに伴って新しい情報が生産されています。知的生産と呼ばれるものに間違いありません。

もう一つ、例示を続けます。
先日、私自身が考えていたことです。

洗面台に歯ブラシを置くとしましょう。それほど突飛な舞台ではないはずです。
歯ブラシが一本なら、何も問題ありません。そこにある歯ブラシを使えばよいのです。

いま、歯ブラシが二本ある状態を考えます。原因は何でも構いません。二人暮らしだからとか、一人暮らしでも歯ブラシを使い分けたいとか、何かあったのです。
しかも、二本の歯ブラシは同じ見かけのものだとします。間違って同じ歯ブラシを二本買ってしまったとか、何か理由があったのでしょう。そういうこともあります。

このとき、二本の歯ブラシを見分けるにはどうしたらよいのでしょうか。
ある日の私は、このようなことにずっと思いをめぐらせていたのです。

歯ブラシAを洗面台の左端に、歯ブラシBを右端に置くことを考えました。良さそうに思えます。
ただし、左端にあるのは歯ブラシBではなくAであることを、暗記しておく必要があります。そちらはどうしたらよいのでしょう。暗記することが無条件で可能なら、同じ見かけの歯ブラシを、はじめから判別できてもよいはずです。
問題になるところをずらしただけで、解決していないのです。

わりと、容易でない話です。私には回答が出せませんでした。

仮に、歯ブラシにマスキングテープを巻くのが最適な答えだったとしましょう。歯ブラシにテープが巻かれただけですので、物的な生産はごくわずかです。
一方で、状況は抜群に進展しています。歯ブラシが見分けられるようになったのです。

新しい情報が生産されています。まさに、知的生産と呼ばれるものです。
知的生産とは、ずいぶんと普遍の概念のようです。


終わりに


知的生産と絡めて書いてみたものの、歯ブラシ問題は相当に厄介です。