2012年11月15日木曜日

どちらでもある部分

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「(前略)ということは――決定、a0 の値は0!」
「正解。でも、怒鳴っちゃ駄目だよ」
「あっと……すみません。求められているのは静寂――でしたね」
「そうじゃなくって、0! って怒鳴ると1になっちゃうからね」
「…………」
以上の引用文は『数学ガール』(結城浩)という本の一節で、私が世界で一番面白いと思っているジョークです。

さて、先日『経済ってそういうことだったのか会議』という本を読了しました。
(「さて」と「ところで」ほど便利な言葉はなかなかありません。)

『経済ってそういうことだったのか会議』(佐藤雅彦、竹中平蔵)

そちらが本当に良い書籍でしたので、本エントリでは同書についてご紹介いたします。

今回はそんな話です。


出会い


私はこの『経済ってそういうことだったのか会議』を、書店で偶然見かけて購入しました。購入に至った直接のきっかけは、当然「書店をうろうろしていたこと」なわけです。
しかし、たくさんの本の中から同書が目に留まったのは、間違いなくcakesの連載「文章ってそういうことだったのか講義」のおかげです。こちらの連載では、同書にあやかって連載タイトルを決定したことが書かれており、私はそれが頭に残っていたのです。

第一講 あなたはなぜ文章を書くのか?|古賀史健|文章ってそういうことだったのか講義|cakes(ケイクス)

奥付を調べると、私が購入したのは2012年6月22日の第35刷のようです。第1刷は2002年9月1日となっており、さらには、私が手に取ったこの本は、もともと2000年4月に刊行された同名書を文庫化したものだということです。
ここからも、同書がいかにすごい本なのかが読み取れます。

ここで、思い馳せるは電子書籍です。

上に書いた、どこかで聞いたような本を偶然本屋さんで見つけて購入することは、本好きにとってはたまらない経験です。
電子書籍ストアではこのような体験ができない、といった話は各所で語られていますので、私からは特に何もありません。人によってはそうかもしれませんし、別の人にとってはそうでないかもしれないでしょう。

ただ、個人的なことを言うなら、書籍を検索するときに「人気のある順」だけでなく「人気がない順」「人気がまあまあある順」「人気がなさそうである順」「人気があるとないが交互の順」などがあると、面白いような気がします。あるいは、「関連書籍」だけでなく「無関連書籍」「微妙に関連のある書籍」「この本を読んだ人は、他にこんな本は読んでいません」なども面白そうです。

要は、普通の買い物などと違って、(本好きにとって)本を探すのは別に便利でなくても良いということです。

それからもう一つ、先述の「たくさん刷を重ねていてすごい」のような状況も、おそらく電子書籍では起こりにくいでしょう。すでに他の形で刊行されている書籍を文庫化することも、同様です。
関連して、本屋さんの棚には限りがあるため、昔の本であれば置かれているだけで何かしらの評価ができるはずであり、これも電子書籍にはない話です。

だからといって、どうするべきかは、私にも特に考えはありません。
そういった部分を電子書籍ストアでも反映するような仕組みがあれば、実際の本屋さんで本を選ぶのに近い体験ができるでしょう。逆に、そういった仕組みを排除するようにすれば、「電子書籍ストアらしい」体験を促進することになるはずです。


内容


ここまで、電子書籍に関する話でした。

『経済ってそういうことだったのか会議』の内容の話に移ります。

同書に、非常に感銘を受けた文章がありましたので、引用させていただきます。
(「非常に感銘を受けた文章」は他にもたくさんありました。実に良い本です。)
ですから、失業問題というのは経済学と人間の生活との大きな接点になってくるんです。
うなりました。
私としては、この箇所を同書の一つの到達点だと思っています。

ぜひ、同書を初めから読んだ上でこの文にたどり着いていただきたいです。
ここでは大雑把に説明することにします。

経済学では元来、人間とは労働力であると考えます。同書には「医学が人間を蛋白質のかたまりと見るように」との表現が出てきますが、つまりはそういうことです。
市場に価値をもたらすものとして、人間は労働力であり、カウンタブルであり、そしてそれ以上でも以下でもないわけです。

一方で、「人間の生活」はその反対側にあるものです。「生きがい」や「生きる喜び」、「お金に代えられないもの」などは、数値にできないものであり、(古典的な)経済学は相手にしない部分です。

そして、そのように対局にある二つのつなぎ目にあるのが、失業問題だということです。失業問題とは、経済学の問題でもあり、同時に人間の生活の話でもあるのです。

だからこそ、失業問題を考えるのは難しく、かつ、解決した暁には大きな効果と喜びがあるものなのでしょう。

ここでは言葉の綾で「解決した」と書きましたが、もちろん、完全な解決はなかなかないものでしょうし、さらに言えば解決するのが誰にとっても望ましいことなのかも判然としません。
そういったところまですべて含めて「難しい」のだと思います。


終わりに


ところで、『数学ガール』が面白いのは、ここで言う失業問題と同質の、難しいものを描いているからなのかもしれません。