2012年8月19日日曜日

あれはランドルト環

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誰にでも、どうしても苦手なものがあると思います。
自分のがんばりが足りないとか、そういったことは何もないのに、どうしようもなく苦手なものです。

誰にでもあることなのに、その対象が偶然「他の人があまり苦手に感じないもの」だったりすると、途端に世界が生きにくくなります。
ただでさえ「感受性潰すマジョリティ」の中で傷つけられながら生きているのに、「偶然苦手だったもの」にまで苦労させられなくてもいいだろうと思いますが、仕方ありません。

例えば、私はバスが苦手です。
どうしてと言われても、どこがと言われても、わかりません。
それから、手早く片づけたり、速く歩くのも苦手です。

悲しくなるので詳しくは書きませんが、ある状況ではこれらが問題になって、つらい思いをしたりするのです。

以上の話を踏まえなくても良いのですが、本エントリでは私が苦手なものの一つについて述べてみます。

今回は、そんな話です。


エレベーター


私は長いことエレベーターに苦手意識がありました。
そして、やはり上に書いたことと同様、エレベーターの何が苦手なのかといったことはわからずにいました。

よく言われることには、閉鎖された空間が苦手、といった話があるでしょうか。どうも私はそれには当てはまらなさそうです。
他には、エレベーター外の慣性系から見たときに鉛直方向に見かけの重力が大きくなることも(ニュートン力学に従うなら)言われるでしょうが、私はこれにもあまり苦手意識はありません。

つまり、どうやら私は容易に思いつくような理由ではないところで、エレベーターが苦手らしいのです。

さて、残念ながら、このところエレベーターを日常的に使用する環境になってしまいました。
始めはとても憂鬱でしたが、しかしほんの二度ほど使用した後には、驚くことに苦手意識がまるでなくなっていたのです。

たった二回ですから、決してエレベーターに慣れたわけではないはずです。私がこれまで乗ってきたエレベーターと、今回苦手意識がなくなったエレベーターとの間に、何か違いがあると考える方が自然です。

その違いは、思いつく限り一つしかありません。

扉を開閉するボタンの表記が、これまで乗ってきたエレベーターでは
   {"開", "閉"}, {"◀|▶", "▶|◀"}
となっていましたが、今回使用したものでは
   {"Open", "Close"}
だったのです。


一見して


表記が「開」「閉」の場合だと、これらの漢字のつくりが似ているため(または、同じため)、エレベーターの扉を開閉しようとする際にどちらのボタンを押したら良いのか、迷いが発生します。
それだけでも十分に問題ですが、加えて、一瞬でも迷ってしまうと「開」「閉」の文字をじっと見つめることになり、そこからゲシュタルト崩壊めいたことが起きてしまいます。
こうなってしまうともうお手上げで、つまり私はエレベーターの扉を開閉しようとすると、動作が停止してしまうのです。

一人で乗っているなら別にそれでも構いませんが、そこに他の人がいた場合には、今度はどんどん気持ちが焦ってきます。

そんなことを繰り返していたためにエレベーターが苦手になったと断定はできませんが、今こうして回想してみると、可能性は高そうです。

「◀」や「▶」の印によって扉の開閉を表現している場合は、事態はさらに深刻です。
おそらく、この三角印は扉が動いていく方向を示しているのだと思います。ですがこの三角印、私にはどうしても、左右どちらを指しているのかがとっさに判断できません。
そしてやはり、ひとたび「判断できない!」と思ってしまうと、見つめれば見つめるほど何が何だかわからなくなり、立ち尽くしてしまうのです。


OpenとClose


その点、「Open」「Close」は優秀です。
ぱっと見てわからないようなこともまずありませんし、もしわからなくても、文字を読めばきちんと判断できます。

おかげで、この表現が用いられているとわかっているエレベーターに対しては、苦手意識がなくなりました。
あとは、世の中のエレベーターの開閉ボタンがすべて「Open」「Close」になるのを待つばかりです。


振り返って


ここで、私がすごく幼い頃のことを振り返ってみると、いくつか思い当たる節が出てきます。

私が小さい頃、家にはビデオデッキがありました。それで子供向けアニメなど、よく見たものです。
おそらくこう言えば、これをお読みの多くの方は何の話か想像がつくことでしょう。

「再生」ボタンです。

ビデオの「再生」ボタンには、「▶」が記載されています。
私は幼い頃、この印の意味するところがさっぱりわかりませんでした。しかも「再生」の漢字は読めません。
このままでは、幼い私は自分でビデオを見ることができないことになってしまうわけですが、当時の我が家のビデオデッキは、幸いにも「▶」の印のみ緑色で記載されていました。私は「緑色の三角印のボタンを押す」と覚えることで、一人でビデオを見ることができたのです。

実はこの状況は、現在でもあまり変わっていません。
ハード、ソフトを問わず、今どきの様々な動画プレーヤーは再生ボタンが目立つデザインとなっていますし、あるいは現在の私なら「再生」の文字を読むことができます。

年齢を重ねても、「▶」マークが「右を向いている」ことがどうしても判断できないのです。


図形


ひょっとすると、私は図形を把握する能力が劣っているのかもしれません。
「▶」が三角形であることは、頂点の数を落ち着いて数えればわかるのですが、右を向いていることは、考えれば考えるほどわからなくなってきます。一度でも「あれ、これ、左上を向いているようにも見えるな……」と思ってしまうと、もうだめです。
(実際、たった今、私はかなりだめな状態です。)

ちょっと思い出してみるだけで、上記の再生ボタンの話以外にも、いくつか実例が出てきます。

数学の問題では、二次元ベクトルの話が私はとても苦手でしたが、四次元以上のベクトルになると、得意になりました。

私は昔野球をやっていました。練習のときには所定の場所にホームベースを置く必要があります。
当然、五角形の角がキャッチャー側を向くわけですが、その「五角形の角」に、五つある頂点のうちどれが該当するのかわからなくなってしまうことが何度もありました。

視力検査で、輪っか(ランドルト環と呼ぶそうです)の開いている方向を答えるとき、「ランドルト環がこっちを向いている」ことは見えているのに、それが上下左右の何なのかがわからなくて、考え込んでしまうことがありました。

これくらいにしておきます。


まとめ


ここから「デザインとは何か。」といった話をしようと思っていましたが、ここまでがずいぶん長くなってしまいましたので、やめます。

すると、本エントリは何も言っていないような気がしますので、「あの輪っかはランドルト環と呼ぶ」とのことだけ覚えておいていただければと思います。


終わりに


本文中に、「エレベーターが動くときに見かけの重力が……」との話をしましたが、これは平たく言うと、体に重力がかかって気持ち悪いという意味です。